保育日記

Je pense, donc je suis、（我思う、ゆえに我あり）

フランスの哲学者デカルトは、「Je pense, donc je suis、（我思う、ゆえに我あり）」と語りました。それは、「我々が認識するものは、すべて嘘かもしれない。でも、それを疑い続けているものがいるということだけは真実」で、たとえ、「疑っている」ということを疑ったとしても、やっぱり「何かを疑っている」ことは真実で、たとえ、すべてが夢であっても、その夢を見て、夢じゃないかと疑っている自分が存在することは決して疑えない。この世のすべてが、信じられないものであろうとも、それを『疑っている何者かが存在すること』は、絶対的な真実なのだと…。誰かと一緒に景色を観た時、それが全く同じものを観ているということは証明できない。何故なら、『色や形を言葉で説明しても、その色や形の定義自体が同じであることを証明することができないから』ということです。
　若干意味合いが違ってくるかもしれませんが、そう考えていくと、これは、目に見えることに限らず、言葉で何かを伝えたときも同様で、受け取る側の理解や解釈、価値観の相違で微妙なズレが出来たり、あらぬ方向へことが進んでしまったりすることと同じのような気がします。毎朝、園舎東側の崖（山）を眺めながら、日課である園庭の線量を計測しているとき、何とかしてこの環境を子どもたちが遊べるようなスペースにしてあげたい、手摺りの付いた階段、東屋や展望台を作ってあげたいと思っていても、そんな僕の考えや見た目とは反対に何故あんな急斜面に危険なものを作るのだろうと思う方がいても当然となるのかも知れません。要するに感情や感覚は、どんな時代であっても十人十色ということなのでしょう。
　さて、今日は今年度初めてのハープコンサートが行われ、4・5歳児クラスの子どもたちが「春」をテーマにハープの音色を聴かせて（楽しませて）もらいました。その中の一曲に僕の好きな、童謡・唱歌「花」（作詞：武島羽衣、作曲：滝廉太郎）がありましたが、この曲はメロディーが素晴らしいのは勿論、美しい日本語の歌詞が素晴らしいのだと思います。しかし、上記のように一人ひとり感じ方が違っていることは間違いなく、ましてや歌詞を知らない子どもたち（もしかすると保育者も）にとっては、残念ながらこの曲の本当の美しさを知ることはできないのでしょう。また、これから日差しが強くなるので日陰をもたらしてもらえるようにと園庭に植えた5.5㌧もあった大きなケヤキの木、これも場合によっては園庭が狭くなったと思われることになるのかも知れません。しかし、できることなら、僕の見ている映像や思いが少しでも誰かと一緒であって欲しい、何故かそんなことを、Je pense, donc je suis、（我思う、ゆえに我あり）という言葉から思わされた朝でした。

童謡・唱歌「花」

春のうららの　隅田川
のぼりくだりの　船人が
櫂（かひ）のしづくも　花と散る
ながめを何に　たとふべき

見ずやあけぼの　露浴びて
われにもの言ふ　桜木を
見ずや夕ぐれ　手をのべて
われさしまねく　青柳（あおやぎ）を

錦おりなす　長堤（ちょうてい）に
くるればのぼる　おぼろ月
げに一刻も　千金の
ながめを何に　たとふべき

2013年04月18日（木） No.989 (園長日記)

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