Diary

風の色が見えますか?


研修会最終日の今日は、今や世界的ピアニストである辻井伸行氏の母、辻井いつ子氏の講演でした。産科医のご主人を持つ辻井さんは出産に不安を抱くことなく子どもが生まれてくることを楽しみしていました。ところが生まれてきたお子さんが全盲であることを知り、現実を現実として捉えることができず、きれいなものを見た時、彼はそんなきれいなものを見ることができないかと思うと辛くて仕方がなかったそうです。しかし、全盲とはどんなことなのかを知るため、様々な本を読む中で伸行さんと同じ全盲の方が書いた一冊の本と出会い実際に著者とお会いする機会ができ「全盲ということを気にすることなく健常児と同じように育てることがいい」「花は見えなくとも匂いで感じることができる」と伝えられ変化が生まれたというのです。それからというもの、花見にも花火にも美術館にも一緒に出掛けるようになり、目の見えない彼に実況中継をするように桜の花びらや花火の形などを伝えたというのです。その中で難しかったこと、それが、「色」を伝えること。しかし、いつ子さんは「卵焼きは黄色だよ、そしてタンポポはその黄色と同じの花だよ」と話し、その後、バナナやひよこも黄色であることを伝え色を増やしていったというのです。そんな生活の中で伸行氏が生後8ヶ月の時、あることをきっかけに音楽の才能に気付き、今ではピアニストとして大活躍することになるのですが、こうして大成するまでにはピアノだけでなく、自然の中にいることが好きな彼がしたいといったスキーも水泳も健常児と同じように経験させてあげたというのです。そんな彼がある時「今日の風はなに色?」と尋ねたそうです。目が見えなくとも、心の目で見る、色を感じる、景色を見ることができる、風に色を見出すということに素晴らしさを感じましたが、その様に育てた母親であるいつ子さんの、「人間の持っている可能性の素晴らしさを信じ出来ないことを嘆くのではなく出来ることを伸ばそう」という考えや、全盲者はピアニストとしては難しいという意見に対して「前例がないなら自分たちが前例になればいい」という思いに感銘を受けました。そして、僕も出来ることなら、風に色を見出せるような間性を持ちたいと思います。
 さて、話は変わりますが、今日で東日本大震災から31ヶ月が過ぎましたが、4日間名古屋で過ごし新聞に目を通した中で感じたこと、それは、被災地の新聞と違い震災関連の記事がないことでした。これまでも被災地とそれ以外の地域では震災に対する思いや考えに温度差があることを聞いていましたが、現実を目の当たりにすると、何ともいたたまらない思いがしました。前述の辻井伸行氏ではありませんが、被災地の実態を見なくとも被災地のことを感じられる一人ひとりであって欲しいと思います。
2013年10月11日(金) No.1147 (園長日記)

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