保育日記

将来は科学者

　今朝、５歳児のＴ君が黒い何かが張り付いたセロハンテープを１０㎝位手に持ち保育室の床や廊下で何やら不思議なことをしています。僕は何かを作ろうとしていたものの、床にテープが着いてしまい砂だらけになったのだと思っていたのですが、Ｔ君が、「園長先生見て！ほら、蟻いっぱい捕まえたよ」とご満悦。そうです。僕が砂だと思ったのは何と『蟻』だったのです。Ｔ君は床や廊下を歩いていた蟻を見付け一生懸命に蟻退治をしていたということなのです。その集中力と根気強さには驚くばかりでした。将来は科学者でしょうか。思えば僕も幼い時、庭の蟻の巣に水を流し込んだり爆竹を入れて巣を爆破させて遊んだものです。Ｔ君の行動に触発されたわけでもありませんが、子どもたちを迎え入れをしている際に自分の足下に目を転じてみると、そこにも蟻が行列をなし、忙しそうにしていることに気付きました。中には自分の身体と変わらない大きさの食糧を運ぶ蟻がいたり顔と顔をつきあわせ何かを確認している蟻が見られたり…。蟻は自分達が出す分泌物で自分の仲間や巣を認識していたはずです。そんな小さな虫にも命があり生かされていることをつくづく感じました。
　最近NHKなどにも出演することがあるのでご存知の方もいらしゃると思いますが、青山学院大学に福岡伸一先生という教授がいらっしゃいます。以前、東京で福岡先生のお話をうかがう機会がありましたが、その際にこんなことを言っておりました。「理科系の学者になるには、一つのことが好きで、ずっとそれが継続していることが大切」だと…。その福岡先生は幼い頃、虫が好きでよく虫を観察していたそうです。その結果として生物学者となったとも言えるのでしょう。本来、子どもは福岡先生同様、様々なことに興味関心を持ち、何故、どうしてといった疑問を持って過ごしています。日本にフレーベルの教育を広めて下さった倉橋惣三（くらはしそうぞう）先生は子どもたちに必要なことは自由であると言い続けました。しかし、そんな、自由や子どもたちの興味関心よりも大人の設定した何かに取り組ませ、その設定に反するとダメな子、言うことを聞かない子とてしまう風潮のある日本の教育界にいささかの疑問をかんじてなりません。黒柳徹子氏が書いてベストセラーになった『窓ぎわのトットちゃん』という本にも彼女が様々なことに興味関心・疑問を持つ姿、そして、その気持ちに寄り添い満足させてあげる校長先生の姿が書かれています。この校長先生は国立音楽大学附属幼稚園の創設者小林宗作先生です。そして、この小林先生は以下のような教育理念を掲げ保育をなさいました。
「教育は何ものにも束縛されない自由なものでなければならない」
「教育は子どもに本当のことだけを教えなければならない」
「子どもの感性を無視して教育を他の目的に利用してはならない」
として、明るく、自由に、のびのびとした環境の中で、一人一人の個性が輝く教育を目指しました。
　保育園でももう少し子どもたちの興味関心に気付き、子どもたちの声に耳を傾けて過ごしていくことが今求められているような気がします。勿論、自由の中には必要なルールがあり、年齢にあった学びや成長は必要で、そのために何が必要なのかを保育者が見極め関わることが求められるのですが。

2010年07月05日（月） No.152 (園長日記)

<<2010年07月>>
日	月	火	水	木	金	土
				1	2	3
4	5	6	7	8	9	10
11	12	13	14	15	16	17
18	19	20	21	22	23	24
25	26	27	28	29	30	31